JR東日本における労資紛争について

2018/03/03

 JR東日本で、会社と多数派労組=JR東労組との労資紛争が激化しています。定年退職した国労組合員ですから、紛争の経過を詳しく追っているわけではありませんが、思っていることを書きたいと思います。

 紛争の直接の原因は2018年度のベースアップにあたって、JR東労組がすべての社員に同額のベアを実施するよう要求したことに対して、会社がそれに応じなかったことにあります。組合側がストライキを構えたことに対して会社は激しく反発して「争議行為中止の申し入れ」を行うとともに、全職場に「(組合の要求は)到底認めることはできません。…社員の皆さんのご理解とご協力を強くお願いいたします。」などとする掲示を張り出しました。この対立を契機にJR東労組では混乱が発生、各職場では管理職を先頭に組合を脱退する動きが加速度的に拡大しているほか、ストライキに反対したいくつかの地方本部がまるごと脱退する動きもあります。
 2017年4月には、約58,000人の社員中43,000人を組織していたJR東労組では、2月に入って約7,000人の脱退者が出たという情報が届いており、この動きはさらに拡大している模様です。(ちなみに国労の組織人員は約4,000人)。大量の脱退者が発生している裏に会社の意思が働いていることは明白です。現場長による個人面談が行われ、実質的な脱退強要が行われている現場もあるようです。経営者が労働組合からの脱退を働きかけることは、労働組合法が禁じている不当労働行為ですが、JR東日本はJR東労組との協調体制を転換し、JR東労組の影響力を経営から排除して少数組合に追い込む方向に舵を切ったといえます。会社は、団体交渉の継続中にJR東労組が一方的にストライキを計画したことは「会社との間の信頼関係を破壊」したとして、2月26日、労資の協調体制を取り決めた「労使共同宣言」の「失効」を通告しました。

 こうした労資紛争は、もちろん今年度のベアをめぐってはじまったのではなく、ここ数年来の、会社とJR東労組の間の対立が頂点に達して表面化したものです。
 JR東労組の指導部は、国鉄時代、動力車労働組合(動労)を主導していた勢力で占められています。1987年、中曽根自民党政権が国鉄の分割・民営化を強行したさい、当初、分割・民営化に反対して国労と共闘していた動労は、情勢が困難になるにしたがい姿勢を変え、分割・民営化前年には、鉄道労働組合(鉄労)などとともに、国鉄当局との間で「労使共同宣言」を結び、(「鉄道事業再生のための現実的な処方箋は、政府及び国鉄が推進している『民営・分割』による国鉄改革を基本とするほかはない」←「第二次労使共同宣言」)、分割・民営化推進と争議の自粛を宣言するにいたりました。
 以後、彼らは国労攻撃の先頭に立ち、分割・民営化反対の旗を降ろさなかった国労を職場から排除する先頭に立つことで、政府・当局の庇護を受けることになります。彼らはことあるごとに、「改革に汗をかいた者が報われるのは当然だ」という言い方で、分割・民営化に反対した国労組合員を差別することを公然と要求して、国労解体の先頭に立ちました。分割・民営化で解雇された1047名の解雇撤回闘争に際して、JR東労組はJR東日本への採用に反対してストライキ権を確立することすら行ったのです。会社はJR東労組のこうした姿勢を評価して彼らを支援し、彼らと協調することを労務管理の柱としてきました。国労組合員に対する昇進差別が続き、最低職から一つ目の試験にもほとんど合格しない中で、JR東労組の職場活動家は管理職試験に続々と合格するようになり、中には現場長(駅長など)になるものも現れました。JR東労組が多数派組合を形成していく過程で、こうした会社の支持、支援は不可欠の要素だったのです。それは一口で言えば、闘いの旗を降ろさない国労を当局・会社に売ることで得た多数派組合の地位だったと言えます。
 動労のトップ・松崎明氏は、分割民営化当時、反共謀略組織=国際勝共連合の機関紙「世界日報」や自民党の機関紙「自由新報」に登場して、「鬼の動労」と呼ばれた総評時代の運動を自己批判して謝罪、分割・民営化の中心的推進者、三塚博自民党代議士(元運輸相)のパーティーや、警察官僚のトップ秦野章氏とのテレビ対談で握手を交わしてみせることまでしました。
 こうしてJR東日本のなかで多数派組合の主導権を握った旧動労勢力でしたが、分割・民営化から年月が経過するなかで、あきれたことに、いつの間にか「新自由主義反対」と主張するようになりました。
 いったい、日本で新自由主義が跋扈することになった最大の転換点は、国鉄の分割・民営化と総評社会党ブロックの解体ではなかったのか! その時、公然と敵の側に寝返って自民党政府・財界のふところに飛び込み、闘いの旗を捨てない人々を攻撃する先兵の役割を果たした者たちに「新自由主義反対」などというスローガンを口にする権利があるのか。
 私は彼らの言辞を一切信用しません。闘う気概を持ったすべての人々も同じだと思います。そして、現JR東日本の経営陣(と、その背後にいる財界、さらには自民党政府)もまた、まったく逆の立場から彼らのことを信用していませんでした。JR東日本は、国労がまだ十分勢力を弱めず、1万人を超す組合員を維持していた間は、旧動労勢力との協調を労務政策の基本としてきました。しかし、残念ながら、国労を含めて、分割・民営化に反対した組合が新たな組合員を組織できず、年々組合員の数を減少し、彼らにとって充分に弱体化したと見なした今、いつの間にか庇護者を無視して「新自由主義反対」などと言うようになった者たちの影響力を会社から排除する方向に舵を切ったのです。

 成立の瞬間から、会社の庇護を条件としてきたJR東労組は今や庇護者から見捨てられつつあります。これまで、一見、強固な多数派を形成してきたように見える彼らの組織は、会社から見捨てられたとき、資本、経営者の意思から独立した、本来の労働者としての団結を維持する力を持つことができない宿命にある。会社がJR東労組を少数派に追い込むことを決意した今、彼らの瓦解を止めることはできません。
 もちろん、経営者による不当労働行為は労組法によって禁止されており、労働者は法によって団結する権利を守られています。今、JR東日本の各職場で行われている会社による脱退強要はすべて法律違反であり、許すことはできません。JR東労組のなかには、分割・民営化の過程で何が行われたのか、真実をしらない若い活動家たち、まじめな組合員も少なからずいます。こうした仲間たちがもしも踏みとどまり、団結して闘い続けようとするなら、国労は彼らを支援するべきだと思います。しかし、残念ながらそうした動きは、あったとしても少数にとどまり、JR東労組の瓦解、会社・資本による職場支配の強化という趨勢を止めることは出来ないでしょう。
 JR東労組の瓦解のなかなら、どんなに小さくとも、真実の、職場からの労働者の団結、未来に向けた団結の芽を生み出すことができるのか。
 たった今も、現場で苦闘する仲間たちの奮闘を見守りたいと思います。

(画像は、勝共連合の機関紙「世界日報」に登場した松崎明動労委員長…当時)