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羽田空港運用変更 住民の懸念、置き去りの危険
   大田区にも住民を守る責任が問われる

 本誌で昨年来取り上げてきた国交省がもくろむ羽田空港の運用変更に、住民の懸念がさらに高まっている。12月3日に開かれた区議会羽田空港対策特別委員会には、今回の運用変更計画への反対を求める陳情が新たに提出され継続審議となった。懸念しているのは大田区の住民だけではない。たとえば12月20日朝日新聞は、「離着陸の騒音住民懸念」との見出しで記事を掲載、国交省に約6000件の意見が寄せられ、騒音や落下物を懸念する声が目立っている、と報じた。問題は、国交省にこの懸念を置き去りにして計画を強行する気配が濃厚、ということだ。先の陳情を含めて、住民はさらに動きを強めようとしているが、40年来空港の運用に厳しい注文をつけてきた大田区政には、特に住民を守る責任が問われている。区民にも一層厳しい区政監視が求められている。

国交省、またも一方的「説明会」

 国交省の先に触れた姿勢を端的に示したものが12月12日から順次開かれた「説明会」だ。住民との対話の第2フェーズと謳われているが、説明としては全く不十分、意見交換にはなっていない、と悪評だったオープンハウス型がまたも採用された。この記事を書いている時点ではまだこの説明会が終了しているわけではないため12日の区役所本庁舎説明会を見た限りの評価となるが、前回同様、一方的な、しかも運用変更の「必要性」を前回に増して押し売りする内容だ。
 双方向の対話というものの、立ち話で、しかも説明員の発言がどのような責任の下になされているかもわからない状態では(筆者は説明担当者に名刺を要求したがことわられた)、真剣な意見交換、議論にはなりようがない。何を言おうが、結局聞き置きました、であり、その意見がどう扱われるかはすべて国交省の胸先三寸なのだ。

被害説明もあまりに不誠実

前回の悪評を気にしたのか、今回はさすがに、騒音や安全など、住民が懸念する問題にも少し踏み込んだ展示が加えられた。しかしそれでも被害軽減は可能との強調が主。その上運用変更が住民に与える被害に関してはなるべく薄めたい、との思惑がありありだ。
 そのあからさまな一例が騒音評価予測図(次頁参照)。前回はなかったもので、それが示されたことはそれなりに前進と言えるのかもしれないが、しかしその内容がひどい。騒音レベルLden62dBの範囲しか示されていない。今回の運用変更計画の元になった有識者会議の中間まとめでは、W値75(Lden62dB相当)に加え、W値70(Lden57dB)の範囲も示され、そこには、羽田の一部、川崎のかなり奥まで、さらに品川の八潮まで含まれることが明示されていたにもかかわらずだ(次頁)。
 この点を問いただすと、返ってきた回答は、航空機騒音防止法では基準がLden62dBとなっている、と言うだけ。しかし東京都では環境基準として、住居系地区がW値70以下が望ましい地域として指定され、羽田や八潮はそこに入るのだ。従って大田区の航空機騒音測定報告では、羽田の測定点である仲七会館の環境基準をLden57dBと定めている。そうであれば、最低でもLden57dBの範囲も示すことは当然ではないだろうか。まさに汚いやり方と言わざるを得ない。

大田区政も及び腰?

国交省の姿勢が上に見たような状況にある中、大田区政の姿勢が心許ない。
 大田区議会は既に「区民の不安が払しょくされる説明会」の開催を求める1件の陳情を採択している(9月18日、本誌10月号)。オープンハウス型説明会では不十分と主張している陳情であり、その9月18日の委員会審議でも、最低でも対等な意見交換の場が必要との観点は大方の理解となっていた。
 しかしその後この陳情の趣旨を区が国交省にどう働きかけたかのかが定かでない。現実には二度目もオープンハウス型となっていることを見れば、その程度は知れよう。国交相が計画した今回の説明会の区内開催会場は当初2個所だった。区は、それが最終的に4個所になったことを努力の成果と言いたいのかもしれないが、先の陳情が求めたことは明らかにそんなことで足りるものではなかった。
 まして他の区では国交省に教室型の説明会を行わせているのだ。実際筆者自身12日の説明会で、八潮を始めとする品川区、東部の一部数カ所で教室型説明会が行われたということを国交省担当者に確認している。40年来周辺住民の声を受けて国交省(以前は運輸省)と厳しいやりとりを続けてきた大田区にとっては、その真価を問われる局面と言わなければならない。

区議会、住民の懸念を無視できず

 既に触れたが、12月3日の区議会羽田空港対策特別委員会は1件の新たな陳情を継続審議とした。
 「騒音と事故の危険 子どもたちの学び育つ環境をこわす羽田空港の飛行経路案を心配する陳情」と題されたものであり、飛行経路周辺の学校や病院、また子どもたちが利用する公園・施設を詳細に調べ上げ、「子どもたちの学び育つ環境をこわす羽田空港の航空機運用がされることのないよう区議会として力を尽くしてくださいますようお願い申し上げます」と結論づけている。明確に今回の案に反対を求める陳情であり、区議会にとってはかなり重いものだったと思われる。
 しかし委員会はこの陳情を不採択とすることはできなかった。運用変更容認をにじませる自、公にしても、住民の抱く懸念はとうてい否定できるものではないということだ。審議の中では、日本共産党、緑の党、フェアな民主主義の各委員が、自らもさまざまな懸念点を積極的に挙げながら採択を主張する一方、その他の党は採択の際のみ代表が継続審議と態度表明しつつ、その理由として若干の意見を述べた。しかしそこで自民党にしても、海から入り海に出るのは当然、と言わざるを得なかったのだ。
 ここで示された区議会の認識が今後大田区政としてどう生かされるか、区民には監視を怠らないことが重要な課題となっている。

B滑走路問題にもあらためて注視を

 この陳情では特に、B滑走路から川崎側に離陸する飛行の問題点が取り上げられている。多くの懸念が集中している北側からの着陸と同じ時間帯(15:00〜19:00)毎時24便(4時間合計96便)、つまり3分をおかずに離陸する飛行であり、これもこれまで行われることのなかった運用だ。北側からの着陸の陰に隠れていわば盲点となっていたが、実は大問題の飛行だ。
 その問題の大きさは、これまで国交省は踏み込もうとしなかった運用であること自体に表現されている。過去にも周辺住民がもっとも苦しめられた飛行だ。それゆえ沖合移転事業ではB滑走路自体が位置変更されてもいる。国際線の中・大型機が燃料を満載して、エンジン出力をフルパワーにして離陸するのであり、騒音は並ではない。それが今回の案では3分をおかずの飛行になる。
 その上コースの先には川崎の石油コンビナートがある。これまでその上空の低空飛行は厳禁とされていたのだ。現在のA滑走路からの北向き離陸左旋回飛行(早朝3便以内)でも、多摩川越え時点では3000ft以上確保が条件となっている。これが今回の案では手のひらを返したように2000ft前後だ。監視する会会員が現役パイロットに意見を聞いたところ、パイロットとしては重い機体を手動で引き上げなければならないB滑走路からの離陸の方が北からの着陸よりリスクが高い、と考えているという。

だめなものはだめだ

 いずれにしろこのような大転換を何故可能と考えるかについて、国交省から明快な説明はない。国交省は今回の説明会展示でも、経済成長のためには世界に開くことが必要、との文言を繰り返しちりばめ、運用変更の必要の宣伝に努めているが、それは住民の生活と安全の保全のために不可能としてきた運用を可能だとする説明ではない。
 まして、経済成長との立場に立つとしても、世界に開くことが成長につながるという論理に確かな根拠などないのだ。1990年代半ばからグローバリゼーションが持ち上げられ、「世界に開く」施策が既に長い期間繰り広げられてきたが、日本の成長はずっと停滞したままであり、われわれ民衆の生活はむしろ悪化の一途ではないか。こんなあやふやな理由で、彼らが危険と考えてきた運用をやって良いことにすることは許されない。大田区、大田区議会は少なくとも、住民との誠実な話し合いを国交省に求める責任がある。

(羽田空港を監視する会・大道寺)

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