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大田の景気は? 〜最新報告(主に東京商工リサーチより)〜 =その2=

製造業・町工場景況は悪化

 今回はおおたの製造業の景況をご報告する。引用した最新の資料は大田区産業振興課(商工リサーチに依頼)の最新のもの。
 まず全体の景況だが、前回の小売業でもご紹介した天気に例えての表現では、この1−3月期は「曇/雨」状態で、来期の予想は、なんと「雨」である。この先は、と言う部分では「雨」の予想は小売業と同じであった。
小売業の際にも、この天気の表現でお示ししたが、ここできちんと説明しておこう。景況を示す天気に例えた表現は、大きくは、「晴」。「曇り/晴」。「曇り」。「曇り/雨」。「雨」。と5つの表現で示させていただいている(区の報告では、もう2つ分類は多いが、より分かりやすく筆者が簡素化した)。
 つまり、この先は「雨」は、製造業の業績は悪化するであろろう、と予測されているということ。そして、現実に今のこの秋は、各種報道でも、あらゆる経済指数が悪化しているという。

では町工場の生の声は

○先の受注が見えない。
○競争が激しくなり見積もり単価が下がっている。精度も厳しくなる。人件費の増加も苦しい。
○減収減益の継続。円安でエネルギーの先高で、苦しさが増している。
○電子入札になり、相手の見えない競争を強いられるため、入札価格が低くなり受注できても利益につながらない。
○新製品の立ち上げに対して、準備に4か月もかかり、予算が合意できずに困っている。決定が出来るかできないか不明で、厳しい状況になって困っている。
○独自の努力により販路の拡大をしているため、売り上げは回復しつつあるが、収益は横ばいである。

 まとめると、町工場は報道などでは知られていない不安定な状況で、明日の展望は「雨」ということのようである。

更に悲惨な実情の生の声

○競合が激化する中、価格面で苦労している。特に消費税アップの分が、納入先からこちらに押し付けられるが、それを国は取り締まると言うが、訴えたら取引停止になるので泣き寝入りになっている。
○従来の受注品は減少傾向。新しい技術の開発をするしかないが・・・。
○取引先の廃業などで新規の得意先の確保で四苦八苦。
○納期短縮で時間外の人件費が増加傾向にあるが、製品単価に乗せられず収益の減少がひどい。
○意欲があるなら売り上げ増も可能かもしれないが、その意欲が長年の低迷で湧かないのが実情である。
○大手取引先の事業の縮小、そのために注文の減少に泣いている。
○国内需要の疲弊化。生産拠点の海外移転による輸出の減少。新製品開発スピードの悪化。卸問屋のミニマム発注。これらが総体となって、いずれにも泣かされている。
○周りは廃業する工場ばかりです。新たに工場を始める人はめったにいません。
 そのうちおおたで町工場は見られなくなっていくでしょう。

やっぱり空論だった

 これらの生の声を聴いても、やはりアベノミックスは、あくまでイエール大学・教授の学者先生の理論にもとづく机上の経済論であり、国及び国会議員をも含めて、現場の経済状況はまるで把握出来ていない空論であったと言えそうだ。しかも、この学者先生、最近は国の支出の削減なしでは話にならないと政府のやり方に批判的になっているそうだ。いわゆる議員の定数削減や不要なばら撒き公共事業等の無駄の排除をしないとこの経済政策は効果を出さないということであろう。

いくらかでも良いほうに向いている町工場の話

 意見のバランスを取るため少数派になるが、その声も探すと・・・
○わが社では、エレクトロニクスなど特に新しいものに限っては良いほうに向いている。
○エンドユーザーがほとんど海外のため、売り上げは増加している。半導体関連なので、相手のメモリーメーカー側の設備投資しだいになっている。
○半導体・自動車関係の設備投資が活発で、わが社の業況は上向いた。
○売り上げ・利益は前期に比べ減少した。それで少しリストラを実施した。現在は福島原発の護岸に使う放射性物質を吸着するフェンスを開発中。これは更にため池等でも採用してもらうべく開発中。受注を期待しているところ。
○社員7名中5名が同族。結束もかたく、まあなんとかやれている。
○新卒の採用を始めたが、その教育訓練の成果が出るまでしばらく時間がかかりそうだ。これが何とかなれば、販路の拡大にも取り組めそうです。

 半年ほど前に製造業について報告した時も同様であったが、半導体関連、エレクトロニクス関連についてだけは、まあまあ上向きのようだ。

問題は構造的

 構造問題は変わらず、新たな策が必要という意見も多い
○海外部品調達が更にひどく進行し、受注量はますますダウン傾向。
○日本の工業は、出来る限り国内にて生産するべきではないか。
○受注先の一方的な理由による注文の大幅減。適正価格とは死語になったのか。
零細企業をも活性化させる対策を取ってほしい。
○製造部門の技術者の高齢化が今後の最大課題になっている。
○当社の景況は悲観的です。主な理由は、大手企業の海外移転による部品調達の減少。消費税の増税と円安による原材料や制作設備の価格の上昇。人件費の高騰です。

本誌で取材した先の工場の経営者は

 「政府はお金・お札をどんどん刷って、ばら撒くことで、円安を誘導して、インフレを起こそうとしている。これで全てが解決すると単純に考えている。だが、このお金は大企業と金融関連・株価にばかり向って、中小の事業者や勤め人を含めた庶民の懐までは周ってきていないのが現状だ」「そして、中・長期でみると、そもそもこんなにお金を刷って、この先この国はどうなるのかも考えていない、自分が任期の間のことだけの無責任内閣だと分かってきたな」。
 「だってさ、それもそのはず、そもそも大企業とはさ、企業のうちのたった数パーセントすらもないわけで、働く人の数も数パーセント以下、つまり、90%以上の国民にはご利益なしの政策なわけだよ。それでどうして景気が良くなると考えているのか質問したいね。問題は中小がどうのこうのじゃなくてさ、基本論だよ。冷静に考えてみれば、おおたの中小工場の景気はもともと上向くはずもないわけだよね。馬鹿らしい。どうして経済学者はこの程度の事が分からないんだろうね」――――と、怒り心頭のご意見であった。彼は最近喫煙量が増したと言う。ストレスのためだそうだ。納得である。
 そして、この原稿を書いている10月末にも、黒田日銀総裁は、更に単なる紙を印刷しての「お札」を何十兆円もばら撒くことにした。

見通し立たず

 前回と同じく、中小製造業の経営上の「問題点」の統計を上にご紹介したい。
更に2014年度内の経営の見通しについて、アンケートの集計では「4割が業況改善の見通しはたたない」としている。

 「3割が 最も懸念されることは原油価格、素材価格」の動向としているのも特筆するべきことであった。

 

大田の中小製造業。経営上の問題点・ランキング
1位利幅の減少
2位売り上げの停滞・減少
3位人手不足
4位材料価格の上昇
5位同業者間の競争激化

(区内在住ジャーナリストN)

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