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〜大田の工匠 Next Generation 展 2014〜
表彰された「工匠」展示会・ご報告と考察

 「大田の工匠 Next Generation展 2014」が7月30日から8月10日まで、グランデュオ蒲田で開かれた。区とJR東日本の共催である。ここで紹介されたのは、優れた技術を持つ零細工場の「工匠」たちで、区が今年度に表彰した16人の参考製品とその技術である。
 じつは、区では2008年から零細企業で働く優秀な技術者100人を「工匠」として表彰する制度を展開してきている。これは主に熟練の技に注目したものであったが、昨年からは新しい制度―――主に若手技術者を表彰すという「Next Generation」を始めている。選考委員は、皆さんも知るところの小関智弘さんや某大学名誉教授等々である。
 区民側から見れば、町工場の景気は、いまひとつ、の状況と思えるが、考えようによっては、 「だからこそ今」という機運もあるはずで、どのような内容なのか期待を込めて、取材してみた。

ユニークな発想と技術は更に発展・健在だった

 受賞者たちの技術は、驚いたことに、いずれも目を見張る素晴らしいものばかり。期待していた以上のもので正直驚いている。この中から本誌で取り上げるのは、「区民・素人が聞いても分かりやすい技術」を基準に、数人の受賞者をこれからご紹介させていただくことにしよう。

チャレンジの発想・分野が光る

 まずは、朴栄光さん。この人、ものづくりを展開する分野の発想が違う。大きな会社の下請け製作的な発想からではなく、「冠動脈バイパス手術の訓練シミュレーター」という、とんでもなくユニークな視点から、ものを考え、これにベンチャーとしてチャレンジしている。難しい製品の名前を挙げたが、要するに医学の分野の、難しい外科手術とされる「冠動脈のバイパス手術」をするための医師用練習装置である。何と早くも世界の医学界から引き合いが来ているという。筆者にしてみれば「そりやそうだろうな」――という感じだ。町工場も従来型の大きな会社の下請け注文を受けるばかりでは、やはり先がないのではないか。とんでもない分野へのチャレンジ――この発想こそが大切と知らされた受賞である。

技術とセンスが抜群

 次は土屋直人さん。金属製品製造業だが、ネジの加工で磨いた技術をインテリア雑貨などの開発・製造に生かしている。つまり、部分品製作から完成品にまでであろう。こうすれば完成品は自分で小売してもいい。現実には彼は照明器具の制作にも取り組み、伝統工芸とコラボしたランプは「都のチャレンジ大賞も受賞」している。これは現実に展示してあったが、なかなかセンスのいい素敵なものだ。あとは、そのいいものをどう販売するかだ。メーカー→卸→小売という販路の開発だろうか。それとも、いまどきネットで独自に小売するかだ。そんな思い切った発想チャレンジに筆者は期待したい。

そのチャレンジ精神に同感・脱帽

 竹元茂さんの射出成型技術と金型技術による、従来ないものの発現に挑戦する、という受賞展示品も興味深かった。製品についてはかなり専門的な部品になるので素人の筆者としては紹介しずらいが、新しい成形法による異なる素材開発にチャレンジ・実現させていることを表彰され、その製品が並べられてあった。特に彼はこう述べている。「日本の工業技術は世界ナンバーワンだという過去の栄光にすがり、じつは、現場は危機感に欠けているのではないか。今こそハングリー精神で取り組まないといけない」。そこに同感した。筆者も、「最近の日本ではあらゆる分野で自画自賛がなされているが、それが気になる一人だ」この自覚がないと、「島国でひとり世界に遅れを取る」ことになる。彼の今後に期待したい。

大田の匠さん、健在

 石井竜太さんは、研削のスペシャリストとして、栓ゲージの外形の円筒研削をなんと0,001ミリの精度加工できる高度な技術を持つ「匠」で、表彰された。とにかく0,001ミリはちよっと素人が聞いてもすごい。とにかく1000分の一だ。彼は更に従来工法を脱却し生産性向上を実現させた功績も素晴らしい、と表彰理由に説明がある。

御存知・ユニークな発想のレディ

 東京新聞などでも報道された、女性開発者。神山麻子さんは塗料の水系化を促進するとして、大手の塗料メーカーでは取り組まないようなニッチなニーズにこたえて特殊な機能を持つ塗料を開発し提供している。塗ったのちでも、はがして再びシールのように張り直せる、世界にもない水系塗料「マスキングカラー」を開発して受賞した。これまた「へえー」と感心する分野の開発だ。ここまでいくつか受賞例を紹介してきて、ここが大田の工場の生き残り作戦の最大のポイントではないか。

微細加工は今も抜群――小俣恵一さん

 レーザー微細加工では第一人者だ。この技術は先端技術であり理論が確立されていない部分も多いという。がゆえに、まだまだ勘や経験で取り組む部分が多いそうだが、彼は他社で断られたとして持ち込まれる加工をこなすことで知られているという。じつは、大田には微細加工の専業工場は10社だそうだが、独創性を持ちながら関係各社知識の共有化と、データーベース化を図っているという。

これぞ区の誇れる匠の世界遺産・関口秀利さん

 これぞ本当のおおたの職人さん、と言う経験の技術。展示されたのは、お菓子の「木型」。今どきは他社はCAD/CAMと、マシンニングセンタで制作しているというが、関口さんは長年の経験から手作業で木を削って、制作している。これだけでもなんか作業場の雰囲気がいいと感じるのは筆者だけだろうか。試作の木型を2日ほどで制作できることから、大手菓子メ−カーからも重宝され、注文が今だ多いそうだ。この木型の製作は、デザイン性も問われる仕事だそうで、いわゆる職人技が問われる部分が多い。また何よりも木型でないとできないことはまだまだあるそうで、これからも日本の技を極めていかれるそうだ。頑張れ関口さん。これぞ古き良き職人技と言えるであろう。

(区内在住ジャーナリスト・N)

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