ホーム >  2014/09 > 戦争資料展

〜第35回「大田・平和のための戦争資料展」報告〜
「ふたたび戦争を繰り返すまい!」との願いをこめて

 8月15日(金)から17日(日)までの3日間、下丸子駅前の大田区民プラザ地下1階展示室において第35回「大田平和のための戦争資料展」が開催された。安倍政権の誕生以来、「国民の命と暮らしを守る」との欺瞞的な言葉とは全く逆に「国民の命と暮らしを危険にさらす」政策が次々と繰り出される緊迫した状況の中での開催とあって、残暑が厳しい中ではあったが、期間中多くの方が来場(合計約430名)し、熱心に展示を見、講演に聞き入っていた。

● しのび寄る危険への気づきめざし

 今年の展示テーマは「戦争への道は足もとから 〜若者たちの明日は?〜」。
 戦争体験者世代がますます少なくなりつつある現在、戦争へのリアルな想像力に乏しい世代がほとんどになってきている。その悲惨さを知らない世代は、戦争は嫌だと思っているが足元からひたひたと迫ってくる危険な状況になかなか気づかない。気づいたときにはもう手遅れだった過去があった。特定秘密保護法が制定され、集団的自衛権の行使容認が閣議決定された現在、その歴史的岐路に立っていることに若い人たちに気付いてほしい、との思いも込めて掲げたテーマであった。

● 区内の団体が積極的に展示

 会場に入るとまず「戦争と文化」のコーナー、壁面には、まだ大正デモクラシーの余韻が残る時代から世界大恐慌を経て国家総動員法、生活物資統制へと戦争体制に組み込まれていく姿が写真を中心に展示してある。机の上には千人針、配給切符、なべ、かま、衣服などの実物資料が所狭しと並べられている。
展示はさらに「日本の朝鮮植民地支配」、「戦争犯罪を告発した慰安婦」、「東京の満蒙開拓団を知る会」、「原爆と人間展」、「大田区の教科書問題を考える」の各コーナーへと続く。「東京の満蒙開拓団を知る会」では多摩川農民訓練所と転業開拓団を中心に展示をした。
 「大田区の教科書を考える」コーナーでは、現在大田区の中学生が使っている育鵬社の歴史、公民教科書が、国民主権・基本的人権・平和主義を基本理念とする日本国憲法の精神にいかに反しているかを、他社の教科書と比較してわかるように作られていた。戦前の国定教科書さながらのこの教科書で学んだ子たちが、再び戦場に送り込まれることがあってはならない。来年夏には、再来年から使われる中学校教科書の採択が行われる。国家による教育、教科書への介入がますます強まりつつある今、子どもたちに民主的な教科書を手渡すためにも私たちの力を結集し、行動を起こすよう訴えていた。
 さらに展示は「日本国憲法」、「九条の会」のコーナーへと続き、通路側には「絵手紙」「平和作品展」の力作が並んでいる。ひときわ目立つのが今人気沸騰中の大田区在住の書家、金沢翔子さんの書で「命」「心」など力強い筆致の書が三点掲げられていた。

● 桂敬一さんの講演では会場あふれる

 会場奥の催し物コーナーでは、紙芝居、講演会、アニメ「はだしのゲン」上映、朗読などの催しが連日行われた。開催日の数日前に、告知チラシを見たという東京大空襲の体験者から申し出があり、急きょその体験を語ってもらう催しを組み込むという一幕もあった。
 また、マスコミ問題の研究者として知られる「マスコミ九条の会」呼びかけ人、桂敬一さんの「どう見抜くか―忍び寄る戦争」と題した講演では、用意した椅子が足りず、ほかのコーナーから椅子を運んできて並べるほどの盛況となった。国民を欺く安倍政権の手口とそれと共犯関係にあるマスメディアの危機的な現状を、国民の目、耳、口が奪われていった戦前の姿と二重写しにし、講演を聞いていた人が多かったのではないだろうか。
 ほかにも高校生平和ゼミナールを組織している奥住さんの講演、杉並での教科書問題に関わってきた丸浜江里子さんの講演など、刺激を受ける話を聞くことができた。

● 力づけられるアンケートも多数

 昨年までは会場を4日間借り、初日はまる1日かけて展示作業を行い、2日目から開催していた。しかし今年は財政的に4日間借りるのが難しく、やむを得ず3日間だけ借りて、初日の午後2時までに展示作業を完了し、それからオープンというあわただしい形を取らざるを得なかった。間に合うのか不安があったが、多くの方々に展示作業に協力していただいたおかげで予定通りにオープンすることができた。
 最後に、会場でのアンケートをいくつか紹介しておきたい。「継続するのは大変だと思うが、これからも続けていってほしい」、「安倍政権の危険性をもっと前面に出した方がよかったのではないか」、「軍が関与した慰安婦問題はなかったというウソがよくわかった」、「常設できる場所があるといいのだが…」、「展示の解説をしてもらいたくてもどの方に聞けばいいのかわからないので、コーナー担当者がわかるような名札を付けてほしい」、「大田区の中学校の教科書にびっくり、神話と天皇です」、「マンネリにならないように」など、次回以降の開催に向けてとても参考になる意見が多かった。
 来年は「敗戦から70年」の節目の年にあたる。若い世代が抱えている問題意識にもこたえられる充実した「資料展」になるよう、実行委員一同早くから準備を進めていきたいと思っている。

(多田鉄男 「平和のための戦争資料展」実行委員・新蒲田在住)

ページの先頭へ↑