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本紙の先月号に、来年度から使用される小学校教科書の展示会に行って、積極的に意見を提出するようにと呼びかける記事が掲載(p6)されていた。展示期間は6月3日から30日までの約一か月間、会場は教育センター教育図書室(池上会館)、大森東小、調布大塚小、相生小の4か所ということであった。
小学校の展示はやや不親切
私は教育センターのほか相生小、調布大塚小にも行ってみた。教育センターは期間中の土曜、日曜も開いていてそれなりに平日勤労者への配慮がされており、書棚には現在使われている教科書も並べられていたので、新教科書との比較が出来て便利だった。
小学校の方は平日のみの開催で、児童在校時の校門には警備上施錠されており、インターフォンを通して来校理由を述べ開錠をしてもらうという手間がある。門の外側には教科書展示会の案内表示が一切ないので、小学校に行き慣れていないと、入るのに少し抵抗があるかもしれない。相生小は、正面から入ってすぐ左側の多目的室が展示会場になっていた。畳敷きの和室であるが丸い机とイスが用意してあり、落ち着いた雰囲気の中で読むことができた。調布大塚小は、いったん校庭に入ってから校舎に沿って犬走りを歩き、会議室へ入るというちょっとややこしい順路であった。
迎合あからさま−領土記述
今回展示されていたのは、国語、算数、理科、社会のほか書写、地図帳、せいかつ、保健、図画工作、音楽の各教科書で、それぞれ数社から発行されており、全部を詳しく調べることは時間的にも体力的にも容易ではない。ここでは社会を中心に気が付いたことを書いてみたい。
社会は、東京書籍(東書)、光村図書(光村)、教育出版(教出)、日本文教出版(日文)の4社の教科書が展示されていて、どの教科書も5年生の社会の初めに日本の国土に関する単元があり、領土問題について触れている。共通しているのは、「いずれも日本固有の領土であるが、北方領土はソ連(現ロシア)が不法に領有、竹島は韓国が不法に占拠、尖閣列島は中国が領有権を主張している」という趣旨の記述があることだ。その記述からは、あえて児童に被害者意識を掻き立て愛国心を煽ろうとしているように感じられた。
衝撃を受けたのは東書で、5年で上記の領土問題を扱ったのに、さらに6年でも繰り返し記述していることだ。6年上の教科書を開くと、教育委員会、教育長先生、教科用図書採択事務担当者様あての「小学校社会科教科書の訂正につきまして」と題したA4の紙が2枚挟み込んである。そこには日本と韓国、中国との間の領土問題について加筆した記述があって、この見本誌には間に合わなかったが来年度から使われる教科書にはこの加筆部分が入いりますとあり、編集長の名と平成26年5月の日付が入っている。文科省の意向を受けて自己規制し、検定に合格するために急きょ慌てて加筆したことが見てとれた。
また、国旗については各社とも「自国の国旗だけではなく外国の国旗についても尊重することが大切」という趣旨の記述がある。字面を読むと当たり前のようにみえるが、これもそれとなく国に従属する意識を刷り込もうと狙っているような気がした。
横並びのヤマトタケル
驚くべきことは、全ての教科書がヤマトタケルの神話を載せていることだ。例えば光村(6年)では、神話「ヤマトタケルノミコト」の物語、東書(6年上)は、神話に書かれた国の成り立ち、ヤマトタケルノミコト、教出(6年上)は「古事記」と「日本書紀」、ヤマトタケルの話、日文(6年上)では「ヤマトタケルノミコト」といった具合である。神話と断って載せているものもあるが、歴史の教科書の中で扱われている以上、誤解はまぬがれないだろう。
読んだ感じとしては、教科書執筆者としては神話について積極的には書きたくはないのだが、文科省の意向を受け入れざるを得ず、止む無く書いたという印象であった。商業出版社としての教科書会社は、検定を通って採択されないと商売にならず、どうしても自己規制が働いてしまう。良心的な内容で支持が多く、採択率も一番高かった日本書籍が一転破産に追い込まれてしまったことは記憶に新しい。内容にまで介入する国の姿勢から、やがて国定教科書化への道を歩んでいくのではないかと危惧されるところだ。
国民主権=国民投票?
6年生の社会科教科書で最も気になったのが日本国憲法である。当然のことだが、憲法の三つの柱として国民主権、基本的人権の尊重、平和主義が採り上げられている。しかし、国民主権の説明に国民の権利をあげているのはわかるが、その国民の権利として各教科書とも国民投票をあげていて、投票箱や開いた本のイラストにきまって憲法改正と書かれている。それとなく憲法改正に誘導しようという意図が見え隠れして気持ちが悪くなった。また、天皇の写真が多いのも気になる。文化勲章を授与する天皇とか東日本大震災の被災地を訪問する天皇などの写真がちりばめられている。東日本大震災での迷彩服の自衛隊の救援活動の写真も載せてあり、まるで迷彩服への違和感をなくそうと躍起になっている感じがした。
国語でも神話
国語は光村、東書、教出、学校図書(学図)、三省堂の5社であるが、膨大な量のすべての教科書を詳しく調べることはとても無理なので、神話に的を絞って比べてみた。神話が入っていないのは光村だけで、あとの教科書はすべて載せている。三省堂(1年下)「いなばの白ウサギ」、東書(2年上)が「いなばの白うさぎ」、教出(2年下)が「いなばのしろうさぎ」、学図(2年上)が「ヤマタノオロチ」が登場する。
区民の運動が一層重大に
教科書検定基準と検定審査要項を変えることで、政府の考えを書き込んだ教科書が実現しつつある。実際、教科書会社は政府の意向を汲み、委縮して自己規制による修正がみられるようになった。教出「社会(6年上)」では、現在使われている教科書には載っている韓国併合に関し啄木が歌った「地図上の 朝鮮国に くろぐろと すみをぬりつつ 秋風を聞く」の短歌が削除された。国内にも併合を批判した人がいたことを示す事実が削除されてしまったのだ。
安倍政権が推し進めようとしている「教育再生」政策は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という三大原則をすべて破壊しようという憲法改悪と一体に、日本の軍事大国化のための人づくり、グローバル展開する大企業の利益追求に対応した人材の育成を学校と教育に求めるものになっている。学校での教育の内容や方法にまで国家、行政が介入し統制するとともに、そのための教育委員会制度「改革」など、制度の抜本的改変を狙っている。
このような危機的な状況の中で、こどもたちにより良い教科書を手渡すためにも安倍政権の教育・教科書統制を批判する世論を高め、採択までに大きな区民運動を展開していかなければいけないだろう。
(多田 鉄男 「公正な教科書採択を求める大田区民の会」世話人)