ホーム > バックナンバー > 2014/04 > 客引き防止条例
今の会期中の大田区議会で採択が予定されている条例案がある。防災・安全対策特別委員会で審議中だが、正式名称は「大田区公共の場所における客引き客待ち行為等の防止に関する条例」という。全20条の条例で、その第1条では、「安全で安心なまちづくりを推進し、もって区民生活の平穏を保持し、にぎわいのある豊かな地域社会の実現に資することを目的とする」と、条例の目的が定められている。
経緯は? 規制拡大可能?
条例制定に関しては昨年11月22日に概要が同委員会に示され、11月25日から12月15日まで3週間のパブリックコメントが、また区民説明会も11月26日と11月30日の2回が実施された。それらの結果は今年1月21日の同委員会に報告された。
同報告記録(概要)によれば、まずパブリックコメント意見提出者数は23名。内訳は賛成12名、反対4名、その他3名、無効4名(区外居住者)となっている。
意見概要を見ると、客引きに迷惑を感じていた、との賛成理由がある(12件)。しかし概要発表のためか、どのような形で「迷惑」なのか、何が問題なのか、その具体的状況は明らかでない。
一方で、規制の対象が拡大されることに対する危惧が、条例賛成意見の人を含め、営業に関するもの、社会運動などの市民活動に関するもの双方で出ている。「行為等」との表現が当然の警戒を呼んでいるようだ。これに対し区側は、「『客』を誘引する行為に該当しない社会運動等の政治活動……は対象となっておりません」「路上での活動を排除しようとするものではなく」など、規制対象は限定されていると説明している。また説明会報告には、この条例に基づいて警察官が「指導」することや「質問」することはできない、との区回答が記載されている。
条例案はこれらの意見を踏まえ概要案を若干修正の上、2月26日に提出された。なお説明会参加者数は2回合わせて15名だった。
本当のまちづくりにつながるのか
さて大田区の特に京浜蒲田、JR蒲田、同大森周辺は戦後ずっと、都内でも有数の言わずと知れた労働者の町だ。幾分「危険な匂い」も混じったある種の猥雑さと喧噪、人間くささはいわば町の顔であり、取りすました無菌室的上品さが好みの方には申し訳ないが、それがなくなったらもはや蒲田、大森ではない。そしてそのような大田の繁華街に、これまで今回のような条例はなかった、それで済んできた。
今それが必要になったのだとすれば、一体何が変わったのだろうか。区民構成の変化などで区民が町に求める特性が変わったのか。それとも喧噪の質が変わったのか。先に見た意見書概要を見てもその辺りは判然としない。パブリックコメント応募数や説明会参加数を見ても多いとはとても言えず、区民がこの条例を必要と感じている程度にはいささか疑念が残る。条例制定へと進ませた動きはどこから出てきたのか、この条例に関わる不透明さの第1はこの点だ。
そして、「安全・安心」という漠然とした売り言葉で、規制だけを重ねていく手法に安易さはないだろうか。問題が本当にあるのだとすれば、その背景や原因を探ることが、区政にとっては本来もっと重要なことのはずだ。問題の背景にあるものが不透明なままでは、本当のまちづくりにはつながらないと思うのだが。
(本誌取材チーム・大道寺)