ホーム > バックナンバー > 2014/03 > 「建国の日」を考える2.11学習会
2月11日、「建国の日」制定への抗議を込めて郷土教育全国協議会大田支部が毎年行ってきた2.11学習会が、同協議会正会員以外の参加者も多く交え今年も区立消費者生活センターで行われた。この日のテーマは「天皇・天皇制は教科書にどのように載っているの?」。天皇制を主題としつつ、区立中学校用として、大田区が大きな問題をはらんだ育鵬社版公民、歴史教科書を採択したことも念頭に置かれた。
各社による違いはっきり
報告は同協議会会員の今井和江さん。今井さんは、公民と歴史教科書で取り上げられている14項目について、育鵬社、東京書籍、帝国書院各版の対象箇所をコピーして配列した資料を用意。学習会は、参加者がこの資料を手元に置き、各項目毎に今井さんの指摘に加え各自気づいた点をどんどん出し合い議論する、という形で進められた。
今井さんは冒頭、「最初育鵬社版と東京書籍版の二つだけを読み比べてみたが、違いが分かりにくかった。そこで前教育委員長の桜井光政さんの講演録パンフレット(本誌昨年12月号参照)を読み返し、そのおもしろさに刺激され帝国書院版も比べてみたら違いがはっきり見えてきた」と語った。確かに三つを並べてみると、同じ項目でも書き方が相当にちがう、ということがくっきり見える。しかも育鵬社版の異様さもその分はっきりする。学習会では多くの参加者がさまざまに感想を出し合い、時間が足りなくなるほど議論が弾んだが、いろいろなところにそれとなく隠されている驚くような違いへの気づきも、それを後押ししたのではないだろうか。
育鵬社、天皇を目立たせる
その違いをいくつか例示すれば、たとえば公民第二章の中表紙写真。育鵬社は天皇による首相「任命」写真。わざわざ「任命」という言葉を添え、書状を押し頂いて首相が天皇に頭を下げている図柄であり、何を刷り込みたいかは歴然だ。対して東京書籍は沖縄の平和の礎、帝国書院は国会本会議採決の光景。いずれにしろ違いの大きさにはあらためて驚かされる。ちなみに育鵬社版には天皇の写真がやたらに多い。
また同じ公民で議院内閣制を説明する図版では、育鵬社版だけに天皇が書き込まれ、しかも国民との関係では最上部に置かれている。対して東京書籍版と帝国書院版では天皇は出てこない。また帝国書院版では、国民が世論を通して内閣に圧力を加える関係も書き込まれ、国民が主権者であることをより強調する図柄になっていて興味深い。
歴史では、たとえば戦前の天皇に関し、育鵬社版は天皇に多数の権限が集中していたことには触れず、「実際には政治的権限を行使することはなく」などとわざわざ注釈を付け、あたかも象徴制に近いかのように描いている。対して東京書籍版も帝国書院版も、戦前の天皇がもっていた権限を具体的に明示している。ちなみに現憲法下での天皇の地位が戦前と質的に激変していることについて、他の二社公民が明示しているのに対し育鵬社版公民はまったく書いていない。
十分な教科書比較は不可欠
学習会では、ここに挙げたような違いが古墳時代まで一貫していることが確認でき、詳細な教科書比較の必要性が強く実感された。しかし現在の教科書採択手続きでは、それが教員にも区民にも保証されていない。来年の採択改訂に向け、育鵬社版の取り止めはむろんのこと、充実した教科書比較の保証も不可欠な要求となることを確認し学習会は終了した。
(本誌取材チーム)