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はすぬま温泉をはじめて訪ねたのは5年前になる。
Yori-Iの事務所を西蒲田に移転して、いろいろな催しや集まりのあと時々銭湯参りをする習慣はかつての梅屋敷事務所からのもので、私の楽しみのひとつでもある。
大田区は東京都でも銭湯が格別多く営業中だ。HPで確認したところ銭湯49軒、温泉17軒、スーパー健康ランド1カ所(温泉付)とある。これは公衆浴場組合加盟店の数で、このほかホテル内で温泉を営業中のところもある。因みにJR蒲田駅から徒歩で数分内で入れる浴場施設が銭湯3軒、温泉が5軒もあるのだ。
東急蓮沼駅徒歩2分
目当てのはすぬま温泉はJR蒲田駅西口を右方に出て、多摩堤通りを東急池上線蓮沼駅へ向かって約700m、蓮沼駅からは約2分の至便のロケーション。入り口の暖簾をくぐると3代目近藤和幸さんが笑顔で迎えてくれた。現役バリバリのご夫妻は、早番と遅番に番台を分担。取材に訪れた日は土曜日の午後8時すこし前で、取材の意向を告げると「間もなく夫人と交代しますのでその後に」と快く応じていただいた。
自慢の自然色の源泉
私がはすぬま温泉の大ファンになった理由は2つ。
一つは最大の商品である「源泉」が黒湯では無く自然色の温泉であること。付近の「温泉」例えば蒲田温泉、池上温泉、ゆ〜シティ蒲田、六郷温泉、日の出湯、ヌーランドなどはいずれも源泉が褐色をしている。ところがここは薄黄緑系の自然色。「不思議ですね」と近藤さんに質問。「実はここも先代までは黒湯でした」「当時は温泉法の規制で25度cをクリアーできず温泉とは表示できませんでした」。近藤さんが家業を継いで今年で33年。25年前に一念発憤して黒湯の泉源の隣を約1ヶ月かかってボーリング。しかし来る日来る日も黒湯しか出ない。「どうしましょうか」と親方。「お金は?」「もちろんいただきます!」「それじゃもう一週間やってみるか」と作業継続を決断したら今の泉源を掘り当てた。「どれぐらいの深さですか?」の問いに「企業秘密です」ときっぱり!。しかし「大江戸温泉」と同じ泉源ははすぬま温泉の自慢である。
この温泉入浴を目的に、いま老若男女が詰めかけてお客さんがいっぱいだ。この日も土曜であったこともあり(?)、男湯18個のカラン(洗い席)は満員。洗い場より広い面積の2つの湯ぶねで数人が洗い席待ちの状態であった。他の1つの水風呂と表示の湯ぶねには源泉100%(約19度c)かけ流しの案内版があった。
東日本震災復興に向け
二つ目は近藤さんご夫妻の生き方・ポリシー。2011年3月発生の東日本大震災への生活を賭しての支援活動がある。大地震直後の11年4月、ご夫妻は浴場を1日解放して、入場無料、飲食物持ち込み自由の「東日本大震災復興支援チャリテーライブ」を開催した。現地被災者や支援ボランテアの皆さんも参加する中、心あるミュージシャン、ソロシンガー、合唱グループなどが多数浴場内で生演奏を奏でた。地元の八丈太鼓連も友情出演。参加者への試し打も指導された。場内には被災者支援のカンパ箱が置かれ、店主は飲料などの売り上げを全て被災地に届けた。
チャリティーライブは翌12年3月(震災1周年)に2回目が催行され、ご近所、なじみ客、東急電鉄関係者や外国人まで加わり、浴室、脱衣所は満員の来場者で夜半まで盛りあがった。
小学生と若い女性に照準
都内居住者の98%は自宅風呂があり、中高年が頼りであろういまどき、銭湯の経営はさぞ苦しいだろうとの先入観で、質問をぶつけてみた。意外や「銭湯人口は増えてますよ」「もちろん黙っていてはお客さんは来てくれません。経営努力に精を出しています」と明るい。ターゲットは「小学生と若い女性」。小学生向けには「銭湯ジュニアー・マイスター」制度で、小学生に銭湯の仕事を学んでもらう。大田区の浴場連合会が、2012年3月から始め今年3月29日5回目の講座が開かれる。近藤さんが同連合会長(昨年まで)として立案、実施したびっくりの企画だ。応募者の中から抽選で毎回15名ほどが選ばれ、1日銭湯のあれこれを実践修行して、修了者には晴れて「マイスター認定証」が授与される。副賞に5枚の銭湯無料券がもらえる。
また区内の連合会加盟の銭湯は、毎月第1日曜日を小学生以下が無料デイに設定。「小学生は必ず親御さんを連れてきて来てくれる」と深遠なアイデアのネタを明かしてくれた。「若い銭湯ファンが業界の将来を担ってくれるハズです」と自信に満ちたご夫妻の笑顔がまぶしい。
「銭湯に入りづらい雰囲気があっては商売は続かない」と、近藤さんの視点は若い女性層に関心が注がれる。先代の屋号は「正和浴場」(店主の名前から命名された)。3代目は「はすぬま温泉」とひらがなで柔らかい命名。浴場内の様子も洋風窓から表から素通し、表の掲示板にはカラー写真で内装を紹介。店内には「ハープティー」が無料で提供されている。まだハープが今ほど流行っていない「20年も前からこのサービスをはじめた」とのこと。「健康に良いばかりではありません。お茶を飲みながらお客さん同士が仲良く会話ができています」。
高齢者が無視されている訳ではない。近藤さんが会長当時、大田区と折衝し70才以上のお年寄りを対象に「いきいき入浴証」制度を導入した。450円の入浴料のうち200円を自己負担、250円は区の財政から援助
するというもの。月3回の入浴券が区内の高齢者に支給され、すこぶる評判が良い。「介護保険の先払いと思えば、公費でも安い。病気になったらもっとお金がかかります」と近藤さん。
学生やサラリーマン向けには「手ぶらセット」を用意し、入浴料+200円(バスタオル付タオル代)のみで気軽に入浴が楽しめるシステムもある。
電車通湯の常連も
取材中1人の学生が風呂上がりに、番台の奥さんに話しかけて来た。「浴室内の大壁画(滝の絵)の地名称を当てるとドリンクサービスがあると聞いたんですが?」「そうです!店内のどの飲料でもお好きなもの1本サービスします」。男湯と女湯の2枚あるから2本ok?」「もちろん!」と気っ風がよい。彼は千葉の親元を離れて、雪が谷のワンルームで一人住まい。雪が谷から5駅も電車に乗って時々はすぬま温泉に通っているという。ご夫妻との会話に筆者も加わり、すっかり趣味や世相の話に時間を忘れて気が付けば10時半。
下町の道脇にはまだ残雪が夜半の寒さを示していた。寒風を衝いて自転車で帰宅したが温泉効果で湯冷めは全く感じないで済んだ。
(梅津純一・六郷在住)
はすぬま温泉は来る4月29日(火)、第3回東日本震災復興チャリティライブを開催します。詳細は「蓮沼温泉」店頭またはホームページに掲載されます。ご注目を!そしてご参加を!
住所:大田区西蒲田6-16-11
Tel:03-3734-0081
HP : http://www.ota1010.com/site/hasunumaonsen/