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大田・平和のための戦争資料展
民意無視する政治の暴走に立ち向かう意欲結集

 8月9日(金)から11日(日)までの3日間、大田区民ホール「アプリコ」地階展示室で第34回「大田平和のための戦争資料展」が開催された。期間中東京は焼けるような暑さで、最低気温でさえ統計を取り始めてからの138年間で初めて30度を下まわらないという異常な日もあった。高知県の四万十市では4日連続で最高気温が40度を超え、最高温度の記録を塗り替えた。

●異常な政治念頭にテーマ設定

 ところで近ごろ異常なのは、単に気温や集中豪雨などの気象だけではなく、現在の日本の政治状況もおかしい。いよいよ危険領域に入りつつある。そこで今年度の資料展のメインテーマは「戦争への道は足もとから〜取り返しがつかなくなる前に〜」とした。 
 7月下旬に行われた参議院選挙で安倍政権は、国民の間で反対が多い「原発再稼働」「憲法改悪」などが争点となるのをあえて避け、景気回復と衆参両院のねじれ解消に的を絞って訴えて大勝した。ところが選挙後はまるで国民から白紙委任状を取りつけたたかのように傍若無人振りをいかんなく発揮し、世論に逆行する原発再稼働、憲法改悪に本腰を入れようとしている。本当にねじれているのは衆議院と参議院の方ではなく、世論と安倍政権の強硬姿勢の方だ。世論では原発再稼働、憲法改悪には反対というのが多数派なのに、選挙では逆の結果が出る。こんなに民意を反映しない選挙制度の方がねじれそのものではないか。

●資料展までに状況は一層深刻に

 大勝後、安倍政権は内閣法制局長官に集団的自衛権行使容認派の小松一郎氏を起用し、これまでの政府見解では「権利はあるが行使は出来ず」とされてきた集団的自衛権の解釈を捻じ曲げ、憲法9条の下でも行使できるようにしようとしている。国家が守るべき規範を定めた憲法を、時の政権が勝手に都合よく解釈変更していいものだろうか。
 麻生副総理が憲法改定に絡み「ワイマール憲法もナチス憲法に変わっていた。誰も気がつかないで変わった。あの手口、学んだらどうかね」と放言し、国際的な非難を浴びた。ナチス肯定のこの暴論は閣僚としての資質が問われるばかりでなく、その責任を問おうとしない安倍政権そのもののナチス的姿勢を露呈したものだ。
 昨年自民党が発表した憲法改正草案は、本来は政治権力の暴走を縛る立憲主義の立場を180度逆転させ、国民、個人の基本的人権を制限する歪んだ草案だ。現行憲法9条第2項を削除し、代わりに国防軍を明記し、集団的自衛権を行使できると解釈している。また、天皇を元首と位置づけ、国旗は日章旗(日の丸)、国歌は君が代と明記している。まるで戦前の国家主義時代に逆戻りさせるかのような時代錯誤な草案だ。

●80年前の戦争への道

 そんな危険な状況の中で警鐘を鳴らそうと取り組んだ展示は、それぞれのコーナーに力が入っていた。入口から入って正面には、千人針や赤紙(召集令状)、食料切符や生活用品などの貴重な実物資料が並べられ、それを囲むように周りの壁には地区別に大田区の戦争遺跡の写真と解説が展示されていた。
 次のコーナーは、「在日朝鮮人の暮らし」で、なぜ彼らが日本に連れてこられ、どんな生活を強いられたかを展示していた。現在関係がギクシャクしている日本と韓国だが、大久保周辺でヘイトスピーチをしている人たちは、こうした歴史的事実をきちんと理解した上で行動すべきだろう。続いて従軍慰安婦問題と戦時下の教育の展示。先生も含めて男女とも上半身裸で授業を受けている国民学校の写真がショックだったというアンケートが若い世代から寄せられていた。
 次が「今を照らし出す満蒙開拓団の軌跡」のコーナーで、東京の満蒙開拓団を知る会がこれまでに作成した展示物に加えて、満洲と帰国後に入植した福島とで二度も棄民とされた農民を取り上げ、また青少年義勇軍についても展示をした。10日の毎日新聞に、今井英男さん亡き後も「棄民の実態語り継ぐ」と題して写真入り記事が掲載され、早速会場に展示された。

●戦争の道に今たち向かう

 次のコーナーは、「原爆と人間展」で被爆者問題、広島、長崎の平和式典速報、原発についての展示があった。続いてが教科書問題で、前回の教科書採択で大田区では危険な育鵬社の中学歴史、公民の教科書を採択してしまったが、その問題点を展示した。公正な教科書採択を求める区民の会では、これまでの会の運動経過と次回の採択で育鵬社版が採択されないよう訴えた。また、育鵬社採択に唯一反対した櫻井元教育委員長の講演パンフレットを頒布した。
 その次は東日本大震災と大田区ボランティアのコーナーで、宮城県東松島市での活動の様子が展示されていた。また、10日の夜には小ホールで担当者の講演があった。
 憲法コーナーでは、憲法改悪とその突破口である96条改憲が切迫した状況にある中で、日本国憲法の成立の背景、明治憲法や自民党草案との比較などを通してこの平和憲法の存在意義を訴えていた。また九条の会など区内で運動をしているさまざまな護憲団体の活動を紹介した。また、絵手紙作品や被災地に寄せられた中国書家の作品などが会場に彩りを添えていた。
 3日間の総入場者数は約350名で例年より3割ほど少なかった。猛暑のため外出を控えた人が多かったということはあるにしても、告知宣伝にもっと工夫が必要だと痛感した。ともあれ、この猛暑の中で取り組んでこられた関係者、協力者の方々のご尽力に感謝をしたい。

(多田鉄男・平和のための戦争資料展実行委員)

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