おとうさんの育児休業日記 (5月)

保育園ではパンダのマーク

'98/05/02(土) ● おとうさん、アップリケを作る ●

 先日、保育園に呼ばれて入園の説明を受けてきたのですが、その時もらってきた資料に、用意する物がいっぱい書いてあって、このところその準備をしています(もっとも「お母さん主導、おとうさんお手伝い」状態ですが)。ちょっと一覧を作ってみると、
・手提げぶくろ
・パジャマ、布団カバー一式
・食事用のエプロンとお絞りタオル(毎日3組)
・衣類
・連絡ノート
・着替え入れの箱3個
・マークのアップリケ
 などなど、これが結構大変です。全部形状が指定されていて市販品で間に合わすというわけには行きませんし、だいいち全部に名前をつけねばなりません。いちばん大変な布団カバーは、0歳から保育園に行ってるおねえちゃんのお下がりがあるのですが、それでもお母さんはここんとこ、「ゆう」の字をミシンでシャツやズボンに縫い付けたり、手提げぶくろを作ったり、大忙し。私は、せいぜいエプロンにホックを縫い付けるくらいしかしてませんでしたが、今日は一念発起、ユウのマークに決まった「パンダ」のアップリケ作りに挑戦しました。ハンガー、椅子、ロッカーなど、ユウの場所には全部「パンダ」のマークが付くのですが、状差しにつける大きなマークは親が作って持っていくことになっています。上の写真が、何時間かかけて作った「パンダ」ですが、なかなかうまくできたでしょう(えっ? 「あほらしい」って? まあそう言わないで)。

 わが家は明日から連休を利用して、お母さんのふるさとにお邪魔します。帰ってきたらユウは保育園。気がついたら、ユウと二人で過ごす毎日はもう終わりになっちゃいました。あと1ヶ月で復職です。

'98/05/05(火) ● 「子供の日」について考える ●

 今日は5月5日の「子供の日」。昔風に言えば端午の節句ですね。広辞苑を引いてみると、「…古来、邪気を払うため菖蒲(しょうぶ)やよもぎを軒に挿し、ちまきや柏餅を食べる。菖蒲と尚武の音通もあって、近世以降は男子の節句とされ、甲冑、武者人形などを飾り、庭前にのぼり旗や鯉のぼりを立てて男子の成長を祝う…」とあります。社宅のアパート住まいの我家に庭はないので鯉のぼりはありませんが、部屋にはおばあちゃんが送ってくれた高そうな兜が飾ってあって、左の写真は、見にこられないおばあちゃんに送るために撮った証拠写真であります。

 菖蒲=尚武(武事・軍事を重んずること…広辞苑)という駄洒落が始まりとは知りませんでしたが、私たちの社会に、男の子は尚武の気風を持たねばならない(男子たるもの戦わねばならない)という戦国の世の考え方が連綿と引き継がれているのは紛れもない事実であり、ユウもまた、0歳児のころから兜を触って大きくなるわけです。

 こんなことを書くと、なかには、
「それはおまえが悪い。かりにも性差別に反対するなら、暴力の象徴である兜なんか飾るのはもってのほかだ」
 とお思いの方がいらっしゃるかもしれません。もちろんそれが正論ですが、しかし、おばあさんから、
「兜送ってやりたいんだけど」
 と電話があると、やっぱり端午の節句は五月人形だよな。おねえちゃんにはお母さんが買ってやった立派な雛人形があるから、ユウにもあっていいよな、などと自然に思ってしまうのも、これまた私の一面であるわけでして…。まあいいか、などといい加減に考えて、ここ半月ほど兜を飾っています。これをお読みの皆さん宅では、雛祭りと端午の節句をどうなさっていますか?

 それにしても、3月3日の「女の子の節句」と5月5日の「男の子の節句」が両方あるのに、5月5日だけ「子供の日」なのはおかしいわけで、もうすぐ6歳になるおねえちゃんに、
「3月3日は女の子の日で、5月5日は男の子の日なんだよ」というと、
「ええ? だって子供の日でしょう」と不審げです。
 「男の子の日」だけが「子供の日」になったのは、もちろん男性中心社会の自然の流れと言えるでしょう。

'98/05/07(木) ● ユウ、保育園へ行く ●

 いよいよ今日、ユウは初めて保育園に行きました、といっても、「慣らし保育」というのがあって、初めての今日は1時間だけでしたが。おねえちゃんとユウと私の3人連れはいつもどおりですが、ユウのための手提げ袋(大部分お母さん、少し私も手伝って作った布団カバー、エプロン、タオル、着替えなど入り)が一つ増えて、抱っこポーチでユウを抱き、右手におねえちゃん、左手に手提げ袋2つ(ユウのとリホの)という格好でバスに乗りました。

 0~1歳児のクラスは「さくらんぼ組」です。テラスから戸を開けて入ると先生が2人、ユウと同じくらいの赤ん坊が3人。「おはようございます。今日からお世話になります。ユウです」と先生にも赤ん坊にも挨拶して、「お友達がいるよ。おはようってしようね」と言いながらポーチからユウを降ろすと、ユウはなんだか変だな、こんな所知らないよというような顔して私の足に絡みついてきます。壁に朝の手順が張ってあります。
1) 検温して、記録簿に記入。
2) おむつを替える。
3) 食事用のエプロンとタオルを篭に。連絡帳を篭に。
4) お尻拭きタオルをかける。
5) 元気に声をかけてお出かけしましょう。
 落ち度のないよう手順を済ませ、布団カバーをかけると9時半になっていました。他の子たちは、とっくに椅子に座って1回目のおやつを食べています。8時半から9時までの間に登園させることになっているので30分オーバーです。先生が、
「もう9時半ですね。じゃ10時半までということで」
 とおっしゃって、
「じゃあ、ユウ、バイバイだよ。先生と遊んでてね」
 と言いながら抱き上げて、先生に渡してもユウは泣きません。先生の胸に抱かれて緊張気味ですが、キョトンとした顔でこちらを見ています。泣くと思ってたのに、全然泣かないな、これじゃ慣らし保育必要ないかもしれないなと思いながら保育園を出て、近くの公園で暇をつぶしました。日も高くなって、中年男が公園のベンチでコーラ飲みながら新聞読んでいるのは、どう見てもリストラで失業中という格好、少々恥ずかしい気がしました。別に昼間から男が公園にいて悪いわけはないんですけどね。

 きっかり1時間後に保育園に戻ると、ドアのガラス越しに先生の胸でワーワー泣いているユウの顔が見えました。
「最初の30分泣かなかったんですよ。ひとりでおもちゃ持って遊んでたんですけど、30分たって、おとうさんがいないって気がついたみたい。それからずっと泣いてます」と先生。
 ああやっぱり泣いたかと、ちょっと嬉しかったですね。だって、おとうさん居なくなっても全然悲しくないなんて、張り合いがないものね。

 私の顔を見るとすぐに泣き止み、家に着く頃にはすっかり普段どおりになっていましたが、明日はたぶん別れるときに、置いていかれると気づいて泣くだろうな。明日は1時間半です。

'98/05/08(金) ● ユウ、泣き虫になる ●

 保育園2日目。予想通り今朝は先生に渡したら途端に泣き出しました。昨日置いていかれたことを思い出したのです。先生の胸で泣きながらこちらを見ているユウを置いて行くのは忍びないけれど、慣れてもらわねばなりません。「バイバイ、先生と遊んでてね」と言って保育園を出て、今日は1時間半あるので一度家に帰って掃除を済ませて、10時半に行ってみると、やっぱり先生に抱かれたままで泣いてました。
「抱っこしてても泣き止まないから、おんぶしたら寝たんですけど。20分くらい寝たかな」と先生。
 抱っこされて知らない人の顔が見えると、とても寝るどころじゃないけれど、おんぶだと誰だかわからないからいいのかな? 眠れたのはいいことだけど、でも先生の背中で寝た20分以外はずっと泣いてたようです。
「おんぶされてるんですか。おうちでも」と聞かれて、
「ええ、家事はおんぶしないとできませんよね」とこたえると、
「そうですよねえ」
 と言いながら、先生は納得したような表情をしましたが、どうも父親が子供おんぶしながら掃除や洗濯をしている姿を想像できなかったみたいです。

 私に抱かれて安心したのでしょう。帰りのバスを待ちながら抱っこポーチで寝てしまったのですが、バスの中で、ヒックヒックとしゃくりあげながら寝てるのが気になりました。寝ていても置いていかれた恐怖がよみがえってくるのでしょうか?

 夕方、帰ってきたかみさんに寝ていた時間以外はずっと泣いてたみたいだと言うと、
「そんな話聞くとほんとにかわいそう。こんなに小さいころから親と離されて」
 と動揺ぎみの声が返ってきました。「大丈夫よ。時間がたてば慣れるから」くらいの返事が返ってくると思っていたので少々意外な感じがしました。とりあえず、来週1週間は慣らし保育が続きます。ユウにとってこれまでの人生(11ヶ月ですけどね…)で最大の試練ですね。

'98/05/14(木) ● ユウ、依然泣き虫のまま ●

 ユウ君は依然として泣いています。今日は先生にお昼ご飯を食べさせてもらうことになっていたのですが、お昼ご飯が終わるころに迎えに行ったらワーワー泣いて先生が1人かかりきり、とてもご飯どころではないようす。
「おとうさん、食べさせてあげてください」
 と言われて、私が抱っこして食事用の椅子に座らせるとるともう機嫌を直して、私の手からご飯を食べはじめました。
「おねえちゃんがしょっちゅう見に来るんですよ。それで今日は、おねえちゃんと一緒にお部屋の外で少しは遊べたんですけど」と先生。
 今日も、おんぶ紐でおんぶされて寝ているときと、おねえちゃんの来ているとき以外は泣いていたようです。少しずつ慣れてきている感じもあるのですが、まだまだですねこれじゃあ。保育園からいただいた短縮保育の予定表では、明日はお昼ご飯の後お昼寝して、2時半に帰ることになっているのですが、先生が、
「明日もお昼ご飯の後にしましょう。全然ご飯食べられないと、お昼寝のあとの2時半まで持ちませんから」
 とおっしゃって、ユウ君落第です。これで明日の金曜日と来週の月曜日の2日間、11時15分のお迎えが続くことになりました。自分も1ヶ月前から別の保育園に子供をあずけて働いている先生が、
「大丈夫。遅い早いはあっても慣れますから。私のところなんか、1ヶ月たってもまだ慣れないんですよ。いろいろありますから」
 と励ましてくれて、他の先生も口々に大丈夫だと言います。どうも、泣き続けるわが子を見て、私が心配していると思っているようです。でも正直なところ、私はほとんど心配したりかわいそうになったりしてません。他の子も慣れるんだからうちの子も慣れるはずと無責任に思ってるだけで、正直言うと、人生最大の危機に直面してパニクッているユウのことなどそっちのけで、早く通常保育にならないかな、家で好きなことできるのになと、よからぬ思いを抱いているのです。そんな薄情者の私としてはちょっとがっかりしました。でももちろんこれは仕方ありません。

 × 慣らし保育の予定表 ×

       (予定)   (実際)
 5/07(木) 9:00-10:00  ←
  08(金)    -10:30  ←
  09(土) ----
  10(日) ----
  11(月)   -10:30  ←
  12(火)   -10:45  ←
  13(水)   -10:45  ←
  14(木)   -11:15  ←
  15(金)   -14:30 9:00-11:15
  16(土) ----
  17(日) ----
  18(月)   -14:30 9:00-11:15
  19(火) 通常保育  ??
  20(水) 通常保育  ??

 ところで、おねえちゃんのリホはユウが保育園に通いだしたのが嬉しくてたまりません。急に「お姉さん」になって、保育園につくとすぐ自分のクラスを抜け出して、ユウのおむつを替えている0歳児のクラスを見にきます。私が帰ってからも、赤ん坊が好きな友達と一緒に見に来ては、ユウが泣いていると「いい子、いい子」しているようです。

'98/05/15(金) ● あれ? 慣れたのかな ●

 今日も泣いているんだろうなと思いながら、11時過ぎに保育園に行ってみると、予想に反して先生の横でにこにこしていました。
「今日はおねえちゃんたちが畑でお芋植えるのずっと見てたんですよ、おんぶされて」
 と先生。どうやら慣れちゃったみたいです。保育園には、「突然慣れる」というか、「突然、泣いてもむだとあきらめる」場合が多いようで、ユウもそうらしいです。いつか慣れるだろうとたかをくくっていたとはいえ、少しばかり心配でしたが、どうやら先が見えてきたようで、一安心というところです。おねえちゃん達の畑仕事(遊び)?を見ていて寝そびれて、おきたばかりだというので、お昼ご飯を食べさせてから帰ってきました。

'98/05/19(火) ● 保育参観と父母懇談会に行く ●

 今日はおねえちゃんの保育参観と父母懇談会に行ってきました。午前中が保育参観で、一番年長のクラスになったリホたち5~6歳児が先生と遊んでいる様子をずっと見てましたが、最初のうち、リホが、何人かずつかたまって粘土をこねたり、お絵描きしたり、大きな積木でお部屋を作ったりしている子供たちの輪に、うまく入れないようではらはらしました。1人で本を開いてみたり、何かしている子供たちの輪を覗き込んだりしていたのですが、どうもうまく遊びの輪に入り込めません。私が来ているのを意識して、無理に楽しそうに振る舞っているのがわかります。

 リホは、ともだちが遊んでいる輪の中に素直に「入れて」と言えないことがあって、社宅の庭でも、ときどき孤立するのですが、最近、言うことを聞かないと、カリカリ怒ってばかりいる私も、そんな風な姿を見ると、もっと優しくしてやらねばなあという気持ちになりました。もっとも、家に帰って「今日は誰も遊んでくれなかった」などと言う子供は多いようで、この前参加した2月の懇談会でも、何人ものお母さんがそんな話をしていましたから、気にするほどのことではないのですが。ひとしきり遊んだあと、先生が「それじゃ、今日はお庭にお野菜を植えます」と言って、きゅうり、トマト、スイカなどの苗をプランターに植える頃には、すっかり元気にはしゃいでいましたし。

 午前中の保育参観が終わると午後は父母懇談会です。一度家に帰って、1時半に保育園に行くと、決められた部屋に10人ほどのお母さんと先生2人が座っていました。2月に続いて今回も私以外は全部女性。2度目だから平気かと思って出かけたのですが、やはり10人以上の女性の中に1人でいるとあがります。それでも、1人1人がわが子のことについて話す番が回ってくると、受けをねらって、おとうさんもお母さん役を始めると、ガミガミガミガミとうるさいお母さんが2人できて子供が救われないとか、いい加減なことを言って帰ってきました。今回、お母さんたちの話を聞いて考えたのは「しつけ」と言うこと。「お箸を持つ手が変」という話がでて、園長先生が「私の娘も、親が保母だというのに変な癖がついてしまって、1年かけて直した」という話をされました。私は、それを聞いて、箸の持ち方なんかそのうち直るんじゃないかな、そんなに一生懸命ならなくてもなどと思ってしまいました。だいたいが、私は「しつけ」という言葉があまり好きでない。「しつけ」なんかしなくとも子どもは育つんじゃないかなどと考えてしまうんです。私はユウには何も「しつけ」てません。ただ一緒に遊んでるだけです。(でも本当はそうではないでしょう。わたしが「しつけ」なかったから、後でユウが困ることになったらかわいそうだなとは思います)。本当は私は他人を「しつけ」るほど自分自身に (1.)自信がないのです…、ないしは (2.)うぬぼれてないのです。

 ここで本心を言えば、(1.)は公式発表。(2.)は本音であります。

 ユウは15日の金曜日以来、快調です。今日は、午後2時30分、お昼寝の時間が終わるまでの約束だったのですが、2時30分までは、もう昨日クリアーしてしまい、「どうせ父母懇談会に出てるんだから、終わるまであずかりましょう」と先生が言って、懇談会が終わり、「さくらんぼさん」の部屋に迎えに行ったのは3時半を過ぎていましたが、しっかりおやつもいただいて上機嫌でした。それで、明日からは3時半すぎに迎えに行く通常保育とあいなりました。ユウがリホと一緒に毎日保育園に行くようになって、いよいよ私の「おかあさん」生活も終わりが近づいて来たようです。

● ……以下略(「育児休業卒業論文」へ続く)●

 3月に続いて、4月の日記も、そして5月の日記も途中で挫折してしまいました。結局、毎月最後はほっぽってたわけです。材料は取ってありますので、後日補充することにして(…って、これも毎度のせりふ??)いよいよ、「育児休業卒業論文」に続きます。